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2005年 07月 14日
紗織が学校へ行かなくなったのは、高校二年の二学期がはじまって間もなくのことだった。いつも通りに制服を着て朝早く家を出ていたし、夕方のコンビニエンスストアでのアルバイトにもきちんと出勤していたから、しばらくは家族さえ気がつかなかった。四日目に担任教師が自宅を訪れたことによって、無断欠席が発覚したのだ。
リビングに呼ばれた紗織は、無表情のまま、母と担任教師の前に立つと、首だけをわずかに動かして形式的なお辞儀をした。担任の山崎とは目を合わせなかった。彼が、視線を逸らしたからだ。「沢下、最近学校で何かあったのか?」山崎が興味なさそうに訊く。無理に平静を装っているのが紗織には判ったが、がさつではないがいささか鈍感な母の佳江は「山崎先生も心配して来てくださってるのよ。何かあるんならはっきり言いなさい」と、紗織を叱るような口調で促した。紗織はおかしくて吹き出しそうになった。 佳江に「アタシ山崎先生に何度も犯されたの、二度も子供を堕ろしたの」と言ったら、どんな顔をするだろう。今ここでそれを明らかにしたら、山崎の反応はどうだろう。小賢しい男だから、ただ否定するだけじゃなくて、インチキくさい心理学用語かなんかを振りかざしてアタシを危険分子に仕立てて、学校から追い出すかもしれない。まあそれならそれで、アタシはかまわないけどね。 ──五秒ほどの沈黙の中でそれだけ考えると「別に。明日からちゃんと行くよ。先生、お母さん、ごめんね」それだけ言って、今度はしおらしく深々と頭を下げた。薄笑いを浮かべながら。 山崎はすこし余裕ができたのか、佳江に「むずかしい年頃ですから、ご家庭でもいろいろと気を配ってあげてください」などと言っている。佳江は恐縮しきりだ。いったい何という茶番劇だろう。 紗織は、二階の自分の部屋に入ってドアに鍵をかけると、勢いよくベッドに倒れ込んで、天井を見上げながら大きく溜息を吐いた。 山崎に犯されたことなど、ほんとうにどうでもよかった。セックスなんて中学のときに体験済みだし、同級生の不器用な愛撫より、手慣れた山崎のほうが、まだマシなくらいだ。中学のときだって別に「愛し合って」やったわけじゃなくて、ちょっと興味があっただけだし。それに山崎は獣と同じだから、道端で犬に噛まれたとでも思えばいい。ほんとうは、セックスってそういうものじゃないんだろうけど。いずれにしても、紗織の心を傷つけることはなかった。 でも。紗織は現実に戻って考えた。アタシは今、傷ついている。 そうだよ、アタシを傷つけたのは──。 学校で別に何もなかった、というのは嘘だった。 横になったまま、凪に電話をかけた。呼び出し音を十回聞いて、あきらめて受話器を置いた。もう今夜は帰らないつもりだろう。どうせ母親とも上手くいっていないんだし、とぶつぶつ言いながら、凪が今どこにいるのかを考えた。ちゃんとわかっている。吉崎さんと一緒なんだよね。──そこまで想像すると、不愉快になってきた。 こんなことをしていてもしょうがないんだ。明日はちゃんと学校に行こう。尚美や美穂子と話せば、すこしは気が晴れるかもしれない。凪──とだって、以前のように仲良くしたい。今回のことも、別に彼女が悪いわけじゃないんだし──考えながら、紗織は眠りに堕ちていった。凪の夢を見た。笑顔の彼女が助手席に乗ったクルマを運転していたのは、絶対に、そこにいてほしくない「彼」だった。 --------------------------------------------- 『分解』
by Lemon_Kuno
| 2005-07-14 02:45
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